N2Bに必要不可欠な製剤特性 ”鼻腔内滞留性” 評価方法の構築
経鼻投与した薬物を鼻腔から脳へ効率的に送達するには,鼻腔表面に生体防御機構として存在する粘液繊毛クリアランス(MCC)による薬物の咽頭側への除去を抑える必要があります.このため,薬物を鼻腔内に長く留めるため,経鼻投与製剤には粘膜付着剤が添加されます(図1).
図1 鼻腔表面における粘液繊毛クリアランスと粘膜付着剤による抑制
当研究室では,これまでに,ヒト鼻腔内における製剤の滞留性を定量的に評価するため,ヒト鼻腔構造を模した3次元ヒト鼻腔透明モデルを使った評価方法について構築しました(図2).本評価方法を利用して,レオロジー特性の異なる粘膜付着剤溶液や医療用あるいは一般用点鼻薬について鼻腔内滞留性の評価を進めています.
図2 3次元ヒト鼻腔透明モデルを用いた経鼻投与製剤の鼻腔内滞留性評価法
鼻腔内滞留性の付与が期待される製剤材料を用いた製剤設計
血液脳関門非透過性薬物(NSAIDsや新規モダリティである水溶性中分子)を脳に送達するため,製剤への鼻腔内滞留性の付与が期待される製剤材料を利用した製剤設計を実施しています.
①代表的な粘膜付着剤
一般的な粘膜付着剤として使用されるセルロース誘導体やキトサンなどの添加により物理学的特性の異なる経鼻製剤の投与が,薬物の脳移行性に及ぼす影響について検討中です.
②イオン液体(Ionic liquid,科研費テーマ:20K16059)
イオン液体とは,カチオンおよびアニオンからなる分子複合体で,高い粘性,粘膜透過促進作用,薬物の可溶化能を有します.イオン液体の経鼻投与製剤への適用により,鼻腔内滞留性,鼻粘膜透過性の向上が期待されます.そこで,イオン液体の経鼻投与における有用性の評価ならびに粉末化製剤の検討(図3)を進めています.
図3 イオン液体を利用した経鼻投与製剤の検討フロー
③レシチンオルガノゲル
レシチンオルガノゲルとは,油相中でレシチンを主成分とする逆紐状ミセルが絡まり合い,3次元網目構造を構築することにより形成するゲルです.応力応答性を有し,経鼻デバイスにより射出した本ゲルは,鼻腔表面に付着後ゲル化することで高い鼻腔内滞留性が期待されます.そこで,レシチンオルガノゲルの経鼻投与製剤への適用を目的に検討を進めています.